第7話 The long and winding road

(このコラムはしばらくの間、過去振り返り形式でお届けします)

8月下旬
農業をしていると「日の出とともに起き、日没と共に寝る」とまで極端ではなくとも、自然の中で太陽の光や雨といった天の恵みを享受しながら自然と共に生きる、という人間本来の価値観や視点が無意識のうちに芽生えてくるのでしょうか。
時間から時間までのサラリーマン生活では絶対に気がつかない感覚です。

お盆も過ぎ、段々と日が短くなってくるのをリアルに感じたりしながら、貴重な夏の早朝の時間を無駄にしないように、毎日、朝仕事をしてから会社に出勤するのが日課になりました。
朝5時半、さわやかな朝霞の中、田んぼの見回りです。

007_01.jpg朝5時半、まだ薄暗い。徐々に日の出が遅くなってきました。今日も暑くなりそうな夏雲。

007_02.jpg7月末~8月上旬にかけて出穂した稲は、穂も出揃い順調な生育です。

水の状態や雑草の伸び具合などを確認して、すぐに今日の作業場所、第2りんご園へ。

そうです。ここは例のSS落下事件(第4話参照)の現場。もはやトラウマとなっているイヤ~な記憶にもメゲず、お盆ごろから、夏りんご「つがる」の葉摘み作業を行ってきました。
ウチでは葉摘み作業のことを「葉っぱ取り」といってます。なんの捻りもない、なんて直接的な言い方でしょう。農家ごとや地域ごとに、いろんな作業の言い方があるようですが。。


〔農業一口メモ〕
葉摘み作業? りんごの実一つ一つに、まんべんなく太陽の光をあてて赤く色を着けるために、実の周囲の邪魔になる(影をつくる)葉を摘み取る。ただし、りんごを大きくするにも糖度を上げて美味しくするにも葉の光合成があってのことであり、葉を摘み取り着色すればよいというものではない。最大限に葉の働きを活かして赤く美味しく着色させるためには、葉摘みの時期と摘み取る量などの加減が重要。
とはいえ、果樹の葉を摘むということは自然の生理的な働きが抑えられてしまい、本来のりんごの美味しさは引き出せないという考え方もあり、生産者によっては、わざと葉摘みをしない「葉取らず」という生産方法をとる農家もある。葉の影になって全体に真っ赤な色はつかないが味は本来の美味しさ、という「見た目より味」の販売方法で、自然志向が強くなってきた近年では受け入れられてきているが、そもそも「りんご」の本来の味、という点で、生産地それぞれの地質、水質、気候、施肥、農薬、など味を作り出すたくさんの要素が違ってくれば、同じ品種でも当然同じ味にはならないことから、葉をとらないから美味しいと一概に言えることではなく、一般市場では、やはり着色(見た目)が重要視される傾向が強い。

007_03.jpgBefore 葉っぱ取り前。葉の影になっている実があります。

007_04.jpgAfter 葉っぱ取り後。邪魔な葉がなくなり実が見えるようになりました。

「葉っぱ取り」もあらかた終え、8月下旬、いよいよ収穫です。
葉を取ったところから着色が全然違ってきて、みるみる赤く色づいてきます。最初は色の良い実から選んでもぎ、一回りすると最初に残した実も色がついてくるので、二回り目には全部もぐ、という収穫方法です。ちなみに全部もぐことを、ウチでは「ガラもぎ」といいます。
(山形県村山地方のコアな方言で「急いで○○する」を「ガラガラ○○する」と言ったりします。一斉に全部もぐ→急いで全部もぐ→ガラガラ全部もぐ→ガラもぎ、というイメージの言い回しでしょう。たぶん。)

水戸農園では細かく分けると5種類くらいのリンゴを作っていますが、早生種の「つがる」は夏収穫できる一番早いリンゴです。袋をかけず太陽の日を当てて育てるため「サンつがる」という名前で出荷します。

007_05.jpgう~ん、色づいてきました。今年も、美味しそうな夏りんご「サンつがる」が出来ました。

この早生種の「サンつがる」の収穫を終えると、次は中生種の「昂林」という品種のリンゴの仕上げにかかるのが毎年の作業工程でしたが、今年は他の農家に任せてしまったので、その仕事はありません。母も、少し寂しそうです。

これで良かったのか、悪かったのか。
兼業農家「水戸農園」は始まったばかり。
まだまだ悩みながら、長く曲がりくねった道は続きます。

つづく

このブログについて

山形R不動産仲介担当の水戸靖宏が、ある日突然兼業農家になり、戸惑い、苦悩し、時折愚痴を言いながらも、楽しく農地と向き合っていくストーリー。後継者不足で増え続ける空き農地。山形R不動産では物件ばかりではなく、農地や農業も紹介してしまうのか!?

著者紹介

水戸靖宏(千歳不動産株式会社常務取締役)
山形R不動産における不動産仲介業務担当