第18話 White Christmas

(このコラムはしばらくの間、過去振り返り形式でお届けします)

2012年 1月
新しい年になりました。兼業農家season 2 開幕です。

年末年始をゆっくり・・・
なんて悠長なことを言う暇もなく積雪の中を果樹園に通っていました。
実は、年が明ける前から休日は連日果樹園へ。

018_01.jpg 年末最初の出動は12月24日。山形はホワイトクリスマスでした。この時期は、まだ5~10cm位の積雪

この真冬に果樹園での仕事?

それが、あるんです。
しかも、果樹の生産には欠かせない重要な仕事。

「剪定」です。(正確には、整技・剪定)


〔農業ひとくちメモ〕 整枝・剪定とは?・・・木は幼木から成木の時期にかけて、将来の樹形の骨組みとなる幹や桟をつくる。それを整える作業を「整枝」という。また、これに伴い不要な枝を整理する作業を「剪定」という。果樹の場合、花芽や実をつけるためには剪定が必要で、毎年、適度な剪定を行わないと、次第に樹形が乱れ、日当たりや風通しが悪くなってしまう。さらに整枝や剪定をきちんと行わないと、病虫害の発生の原因になったり、内部の日照が悪くなって、枝先にしか実がつかなくなったりする。完全に落葉し、根の活動が低調となる冬期に行うことが基本で、一般的には12月から3月に行われる。


つまり、高品質の果樹を安定してつくるためには、「剪定」は絶対に必要です。

これこそ果樹農家の真髄、プロの腕の見せどころ。
というくらいに、技術と知識と経験が必要な作業。夏の管理作業の比ではありません。

剪定によって「樹形を整える」だけではなく、「土地の養分の強弱」は園地ごとに全て違い、また「樹勢の強弱」も果樹の一本一本全て違うため、枝を見て「樹形」「養分」「樹勢」を判断しながら将来の枝の伸び方や果実の成り方を調整する必要があるのです。

「くだもの職人」だった父は、家の農業を継ぐ前に、JAの営農指導員という仕事をしていて、農作物(特に果樹)の生産の技術指導をしていた経歴があり、「剪定」に関してはプロ中のプロで絶対の自信も技術も持っていました。他所の果樹園の指導もしたり。

ところが、後継者である私は一度も剪定の技術を教えてもらっておらず、素人中の素人。

・・・・こんなことなら、剪定の手伝いしながら技術を習っておくんだった。。。

あとの祭りです。

父がいなくなり突然兼業農家になって、嫌でも自分で剪定しなくちゃならない羽目になって初めて、同じ家にプロがいたことを自覚している始末。

果樹農家の多い地元では、技術も時間もない兼業農家から請負って自分の園地以外に何ヶ所も剪定している専業農家も多く、この冬を迎えるまでは私自身も自分でやるとは思ってもおらず、「近所の専業の方にお願いするか。」くらいに軽く考えていました。

しかし、いざ冬が近づき数件声をかけてみたところ、みんな請負いの量が多く手がいっぱい(それだけ自分でできない兼業が多い)という状況。さらに、周囲に指導もしていた父が残した果樹園は、敷居が高いらしく、なかなか請け負ってくれる農家がいませんでした。

・・・・どうする?

これには私もかなり悩みました。
本業(?)の不動産業もあり、作業できるのも土日くらい。
技術も経験も時間もない。三重苦です。

剪定だけは、父がずっと一人でやっていたため、母も経験がなく
「おらだだげではさんないべ。木みな切って誰がさ畑みな貸して百姓やめっかは。」
(標準語訳 「自分達じゃ無理だよ。木を全部切倒して誰かに畑貸して農業辞めようか?」)
なんて弱気になってるし。

でも、そう言われると、
「技術がないために農業辞めるなんて絶対できない。父にも申し訳が立たない。」
「どうせ無理なら、素人でもやれるだけやってみようか。失敗しても元々だ。」
・・・・なんて、意味もなくまたまた無謀なヤル気に火が着いていました。

ちょうどそこへ、一度請負いをお願いして断られた、父の後輩だった近所のAさんから、
「手がいっぱいで全部請負うことはできないけど、お前のオヤジからオレ達も教えてもらったから、お前が自分でヤルなら教えてやるぞ。お前が受け継いだ畑だ。自分でやれ!」
という叱咤激励が。。。

・・・・おお!神よ。捨てる神ありゃ拾う神あり!

といった訳で、前段が相当長くなりましたが、年末はクリスマスイヴから大晦日、正月も3日から、本格的な積雪にもメゲず果樹園で「剪定」をはじめました。

018_04.jpg 大晦日。既にこんなに積雪が。4WDのトラック1号でも園地内に入るにはもうギリギリ。積雪30cm位

まずは、師匠Aさんに半日指導してもらって、ラフランス園から。

将来、この木がどういう風に伸びていくか(どんな樹形をつくればいいか)、
どの枝を残して大事に伸ばしていくか(どの枝が邪魔になるか、どの枝を切るか)、
日当たりはどうか、枝が混みあってないか、樹勢はどうか、・・・など、考えながら。

「考えながら」というか、「悩みながら」。

018_02.jpg 剪定前。徒長枝(樹形を乱すので不要)がツンツン立ってます。

ラフランスは、基本的にほとんどの枝を先刈りする必要があるため、全ての枝にハサミを入れなければなりません。将来に残すべき大切な枝(主枝)に日陰を作ってしまうような邪魔な枝や樹形を乱すような大枝も落とします。

一枝、一枝、丁寧に。

018_03.jpg 剪定後。邪魔な枝がなくなりスッキリしました。

最初は「枝を切る」ということに慣れず、恐る恐る慎重になりどうしても時間がかかります。
「この枝、邪魔だと思うけど、切ってしまっていいのかな?・・・間違ってたら?・・・」
なんて考えて見上げる時間ばかりが長く、一日がかりでやっと3~4本しか進みません。

「おい!オヤジ、どの枝切ればいいんだ?教えてくれなきゃ、どうなっても知らねーぞ!」
と、いちいち心で父と会話しながら、黙々と氷点下の作業は続きます。

約100本のラフランス、あとどれくらいかかるのか。


・・・・重すぎる荷物を残し突然いなくなった父が憎らしくなってきた今日この頃でした。


つづく

このブログについて

山形R不動産仲介担当の水戸靖宏が、ある日突然兼業農家になり、戸惑い、苦悩し、時折愚痴を言いながらも、楽しく農地と向き合っていくストーリー。後継者不足で増え続ける空き農地。山形R不動産では物件ばかりではなく、農地や農業も紹介してしまうのか!?

著者紹介

水戸靖宏(千歳不動産株式会社常務取締役)
山形R不動産における不動産仲介業務担当