第24話 I Feel Fine

2012年 5月上旬
今年は、記録的な大雪の影響により農作物の生育の遅れが心配され、4月上旬ごろの段階で、サクランボの収穫が平年より12日遅れと見込まれていました。

ところが4月中旬以降の高温ですっかり遅れを取り戻し、山形の桜は4月23日開花、26日満開、サクランボも4月28日開花、5月1日には満開となり(水戸農園調べ)、県の発表によると平年より3日遅れの水準まで回復したようです。
・・・よかった。

春爛漫。

水戸農園の果樹たちも4月下旬から、一斉に花を咲かせ始めました。

まずは「梅」の花。

023_04.jpg 最初に咲くのは「梅」ちゃんです。4月25日、八部咲きくらい。

真っ白な可憐な花です。
「梅」はリンゴ園の奥に1本だけ植えていて、毎年自家用の梅干を作ってます。おにぎりに入れるのにちょうどいい小梅が実ります。


梅に続いて「サクランボ」の花。

023_05.jpg 桜より少し遅れて「サクランボ」。4月28日、咲き始め。

サクランボは毎年、開花期の前後に天候不順による冷害や霜害が心配されますが、今年は天候もよく、気温も高い日が続き、順調な開花を迎えました。

そして満開になったサクランボ。

024_01.jpg 5月1日、水戸農園のサクランボ(佐藤錦)、満開です!
024_02.jpg もう一枚!見事でしょ。


突然ですが、ここで「農業豆知識」。

サクランボは、自家不和合性といって一般に自家受粉しないので、一本だけ植えても実が生らないんです。通常は異品種を2本 以上植えて交配しなければなりません。

水戸農園では、主力品種は当然「佐藤錦」ですが、そういう訳で「佐藤錦」のほかに「紅さやか」や「高砂」という品種も受粉樹(交配用)として植えてあります。

また、サクランボの受粉には天候(温度、風)などの他、様々な条件が必要で、自然受粉だけではなかなか受粉しにくく、果実を商品として販売するために一定量以上を生産するためには、受粉効率を人工的に上げる必要があります。
いわゆる「人工授粉」です。

人工授粉にはいくつかの方法があり、

①毛ばたき利用
水鳥の羽毛を使った毛ばたきで、A品種の花を擦ってB品種の花に擦り、又、A品種の花を擦って・・・、を繰り返し、異品種同士の花粉を交換する方法。

②花粉採取方式
蕾がほころび、開花直前ごろに蕾ごと採取して花粉を取り出し、これを異品種の花に機械で振りかけたり、毛ばたきで擦りつけて受粉させる方法。

③ポリネーション利用
訪花昆虫(蜜蜂)による花粉交配(ポリネーション)を利用して受粉させる方法。一番自然な形の受粉方法。(と思われる)

などの方法が一般的です。


水戸農園では、③ポリネーション利用による受粉方法をとっています。

「訪花昆虫?・・・蜜蜂だけアテにして、そんなに蜂がいるのか?」

と、お思いの方が多いでしょう。

・・・その通り!
自然の蜜蜂だけではとても十分ではありません。
まして、自然だけを頼りにしてたら「人工授粉」とはいえません。

実は、ポリネーションを利用して受粉効率を最大限に上げるため、「蜂」飼ってるんです。

水戸農園の蜂メンバーを紹介しましょう。

「マメコバチ」君です。

024_10.jpg これが「マメコバチ」君です。サクランボの花とマメコバチ。

「マメコバチ」は蜜蜂よりも小さい蜂で、蜜蜂のように集団で巣を作らず、普通は内径6~8ミリほどの柱や材木の穴、枯れた草の茎、特にわら屋根のヨシなどの小さな細長い穴に花粉を運び込んで花粉塊を作り、それに卵を産みつけます。1年のうちのほとんどを、この穴の中で過ごし、春暖かくなって花が開花する時期(1ヶ月弱)だけ外に出てきて産卵の準備のために花粉を巣穴に運び込み、交尾と産卵を繰り返すという特性を持っています。一般にはあまり知られていませんが、農作物の花粉交配には「マメコバチ」が多く利用されています。

023_09.jpg 「マメコバチの巣」です。こんな感じで人工の巣を一定の面積ごとに数個置いています。
023_10.jpg 「マメコバチの巣」アップです。もちろん巣箱は手作り。

「マメコバチ」の巣は木箱に葦(ヨシ)の束を入れて蜂の巣を作り、外側は鳥や動物に狙われないように金網でガードします。サクランボ園には年間通して固定で設置しています。


そして、助っ人の「蜜蜂」君です。

023_06.jpg 「蜜蜂の巣」です。4月28日、設置時。
023_07.jpg 「蜜蜂」君です。気温が暖かくなってきて巣箱から出てきました。さあ、出動です!

「蜜蜂」は、養蜂業者さんから一定期間お借りして設置しています。
ようするに「レンタル蜂」です。開花直前に巣箱ごとウチのサクランボ園にやってきて、開花期が終わると(設置から約2週間後)また業者さんに連れられて次の仕事場へ行ってしまいます。

養蜂業者さんでは、ポリネーション用蜜蜂をサクランボやイチゴなどの果物、野菜や花など、その作物の開花時期ごとに全国の農家に貸し出しているのです。花から花へと全国を渡り歩く蜜蜂たち。なんかスゴいシステムですね。そして蜜蜂たちは本当に働き者です。


「マメコバチ」も「蜜蜂」も、ある程度気温が高くなると一斉に巣箱から出て、花に蜜を集めに飛び回ります。この働きにより「蜂」の体に花粉が付着して、また他の花へ移動を繰り返すことで花粉交配されるのです。

「マメコバチ」の行動範囲は約30~40m、「蜜蜂」は約2~3kmも飛ぶといわれています。
そういう特性の違いから、「マメコバチ」と「蜜蜂」を同時にうまく利用して受粉の効率を上げているというわけです

①毛ばたき利用や、②花粉採取方法を行っている農家でも、ほとんど③ポリネーション利用も併用しているようです。実際、いくら人間が「人工授粉」の努力をしても、自然のポリネーションが一番効率がいいのかも。所詮、人間が自然にはかなわないということでしょう。


ちょっと豆知識が長くなり大豆くらいになってしまったので、お口直し?お目直しを少々。。

農園の春の見せ場は、やっぱり"花"です。

024_03.jpg 5月1日、ラフランスの開花。
024_04.jpg 5月4日、ラフランス満開。
024_05.jpg 5月4日、リンゴ(駒ふじ)開花。蕾はピンクですが花は真っ白に咲きます。
024_07.jpg 5月8日、リンゴ(ふじ)満開。
024_08.jpg 5月4日、満開を過ぎ、散り始め直前のサクランボ。
024_09.jpg 5月4日、ナシも開花。(これも自家用で1本だけ。)


まさに、春爛漫。

季節を忘れずに今年も咲き誇った花々に囲まれ、気分も上々です!

そして新緑の5月、一年で一番気持ちのいい季節。

・・・だというのに、農家では「ゴールデンウィーク?だからなに?」というテンション。

当然、一日の休みもなく、あわただしく農繁期に突入です!


つづく

このブログについて

山形R不動産仲介担当の水戸靖宏が、ある日突然兼業農家になり、戸惑い、苦悩し、時折愚痴を言いながらも、楽しく農地と向き合っていくストーリー。後継者不足で増え続ける空き農地。山形R不動産では物件ばかりではなく、農地や農業も紹介してしまうのか!?

著者紹介

水戸靖宏(千歳不動産株式会社常務取締役)
山形R不動産における不動産仲介業務担当