第31話 Don't stop me now

2012年 9月
9月に入っても猛暑は衰えをみせず、夏が永遠に続くんじゃないか?と思えるほど。。

それでも、もう9月。季節は確実に進み、日の出が遅くなって朝5時ではまだ真っ暗。
近くの里山の風景にも、ようやく秋の気配を感じられるようになりました。

031_01.jpg 早朝、日の出前の里山。薄く霞がかかってきました。秋の気配?!

9月の半ばを過ぎても35℃を超す日が多く、作物に高温障害が心配されましたが、田んぼは徐々に黄金に輝きだし、果実も成長が目立ってきて順調な生育です。(と思われます)

031_02.jpg田んぼ (9月9日現在)稲穂も下がり黄金色に近づいてきました。
031_03.jpg ラ・フランス(9月13日現在)
031_04.jpg リンゴ(サンふじ 9月13日現在)

稲刈りまで数週間、ラ・フランスの収穫まで1ヶ月、リンゴまで2ヶ月、これから10月にかけて台風のシーズンでもあり、収穫まで無事に育ってほしいと祈らずにはいられません。。


そして収穫を待つこの時期、果樹の栽培にとって欠かせない「施肥」作業があります。

施肥には、その時期や目的ごとに、「基肥(もとごえ)」、「追肥(おいごえ)」、「寒肥(かんごえ)」、「お礼肥(おれいごえ)」など呼び方も様々あります。
この時期は「基肥(もとごえ)」といって、来年の花芽を充実させて果実を成長させるため、その基になる栄養分を果樹に与える重要な作業です。(昨年の施肥 → 第12話参照

水戸農園では、園地の土壌や樹木ごとに樹勢にあわせて施肥量を決めて、主に有機肥料を使い、8~9月ごろに「菜たね粕」「骨粉」「鶏糞」などを、10月には樹種に合わせて有機質肥料に「肥料の三要素」を配合したJAオリジナル複合肥料を施肥しています。

(農業豆知識 肥料の三要素・・・植物の生育に必要不可欠な成分「 窒素・リン酸・加里(カリウム)」のこと。肥料の成分表示では元素記号で「N・P・K」と表される。
窒素は主に葉や茎の生育に必要な葉緑素生成に関る要素で葉肥(はごえ)といわれる。リン酸は主に開花結実に関係し花肥(はなごえ)又は実肥(みごえ)といわれる。カリウムは主に根の発育と細胞内の浸透圧調整に関係するため根肥(ねごえ)といわれる。)

昨年は、「肥やしバケツ」を肩から掛けて脇に抱え(満タンで重さ約10kg)全量を手で散布しましたが、全ての園地をくまなく2~3周歩き回るという作業のため大変な重労働でした。

031_05.jpg お礼肥に使っている「わかみどり」。後ろに見えるのが「肥やしバケツ」。肩から掛けて肥料を手播きする。

そこで、作業の効率化のため父が10年くらい前に購入していた「肥料散布機」を農機具小屋から引っ張り出して使ってみることにしました。。

031_06.jpg 出た!久々のビックリメカ。「自走式肥料散布機」

「肥料散布機」 カンリウ MF1000
タンク容量:100リットル / 走行速度:3.5km/h / 散布幅:乾燥堆肥2.5m、粒状肥料4.5m
回転散布板によるバラマキ散布で、乾燥堆肥、粒状肥料、糠等オールマイティーに対応

というように、メーカー資料によればかなりの優れもの。

ただ、母の証言によれば、元々カタログ値ほどの散布幅は無く、だんだん回転散布版に肥料がこびり付いてきて更に散布性能が落ちて、結局時間がかかって面倒になって、最後にはいつも手播きしていたため、父もここ数年は使ってなかった・・・らしい。

なんだか、機械使う前から不安要素がタップリ。母にも使うことを反対されながら、せっかくあるんだから機械を使って効率化を、と考えて・・・ええ。使ってみましたとも。

031_09.jpg「菜種粕」と「骨粉ペレット」の散布。

「肥料散布機」の最初の獲物は、「菜種粕」と「骨粉ペレット」。確か資料によれば、散布幅は、乾燥堆肥で約2.5m、粒状肥料で約4.5m。菜種粕は乾燥堆肥だから2.5m、骨粉ペレットは粒状肥料だから4.5mは飛ばせるはず。

エンジンを始動し、まずは「菜種粕」から肥料散布開始!

031_08.jpg 「菜種粕」の散布。茶色の肥料が飛んでる?(・・・というか、こぼれてる感じ?)

タイヤより約30cm外側までには飛んでるかな?本体の幅は約1m位、左右両側に30cm飛んでるとすると、合計1.6m。オマケしてもせいぜい2m。

・・・ん?

・・・乾燥堆肥は2.5mのはずでは?

・・・ちょっと菜種粕の乾燥が足りなくて飛びが悪いのかも。

今度は「骨粉ペレット」。ペレットっていうくらいですから、間違いなく粒状。
気をとりなおして散布開始!

031_07.jpg 「骨粉ペレット」の散布。白い粒状の肥料が飛んでます。見える?

タイヤより約50cm外側までには飛んでる?本体の幅は約1m位、左右両側に50cm飛んでるとすると、合計2m。オマケしてもせいぜい2.5m。

・・・ん?

・・・粒状肥料は、なんと4.5mも飛ばせるはずでは?

・・・

まあ、皆さんご想像のとおり、しかも母の証言のとおり、全く効率化されませんでした。

散布幅が狭いということは、広い園地に隙間無く散布するために往復する回数が増えるということ。肥やしバケツで手播きする場合、もちろん体力は使いますが一回に3m幅くらいは散布でき、機械よりも断然早く、作業後の片付けも楽なのでした。

ガソリンを使い、機械の整備や掃除に時間を使い、コストかけて効率が下がるって・・・

・・・でも、確かに体力的には手播きより機械が確実に楽。今後ますます高齢化していく農業においては、コストがかかっても肉体的に"楽"な作業が、「効率化」より「省力化」が求められるのかもしれません。。

031_10.jpgJAオリジナル肥料「王将有機80」と「さくらんぼ一発」

そして10月、有機質肥料に「肥料の三要素」を配合したJAオリジナル複合肥料「王将有機80」と「さくらんぼ一発」を手播きで散布しました。

・・・えっ?機械?

・・・その後は・・・使ってません。


つづく


このブログについて

山形R不動産仲介担当の水戸靖宏が、ある日突然兼業農家になり、戸惑い、苦悩し、時折愚痴を言いながらも、楽しく農地と向き合っていくストーリー。後継者不足で増え続ける空き農地。山形R不動産では物件ばかりではなく、農地や農業も紹介してしまうのか!?

著者紹介

水戸靖宏(千歳不動産株式会社常務取締役)
山形R不動産における不動産仲介業務担当