第36話 Mind Games

2012年 11月上旬
9月~10月の高温の影響で、リンゴの色づきの遅れが心配されていましたが、11月になると一気に気温が下がって、やっと本格的に色づいてきたようです。

036_01.jpg 11月1日、ふじ。

山形盆地特有の、昼暖かく夜寒いという朝夕の気温差が、美味しい山形特産の蜜入リンゴを育てます。気温が下がってきたこの時期から徐々に「蜜」が入り、11月下旬のふじの収穫の頃には美味しい「蜜入サンふじ」に育つのです。

主力品種「蜜入りサンふじ」の収穫まではあともう少し。

(農業一口メモ : 蜜入リンゴについて・・・「蜜」の正体は、「水分」と「ソルビトール」という糖分の一種。 「ソルビトール」とは葉で作られたデンプンが変化したもので、果実が成長するとソルビトールをブドウ糖に変える酵素の働きが低下し、 ソルビトールが維管束(いかんそく)を破って果肉に流れ込んだ状態が「蜜」が入ったと言われる状態。
「蜜入リンゴ」は最近特に人気がありますが、20年以上前、まだ蜜入リンゴがそれほど認知されていなかった頃は、ギフトでお送りしたお客様から「腐ってる!」と苦情をいただいたり、「蜜入りって、ハチミツが入ってるの?」と聞かれたりしたそうです。「蜜」と呼ばれてはいても「蜜」の部分が特に糖度が高い訳ではないらしいのですが、「蜜」はりんごの果実が完熟した証で、独特の風味を味わうことができます。)


さて、ふじの収穫前に、今日は特別なリンゴの収穫です。

特別な? ・・・それは水戸農園で初収穫となる、『こうとく(高徳)』というリンゴ。

036_02.jpg これが「こうとく」。水戸農園でも3本しかありません。

2年前、付き合いのある青果商さんから父が穂木を譲り受け、別の種類のリンゴの木に高継ぎしていたのです。その時、父は一緒に仕事していた母にも詳しくは説明しておらず、母も「なんか珍しいリンゴ」程度にしか理解してなくて、品種もわかりませんでした。

そして昨年父が亡くなった後、初めて数個だけ実をつけたリンゴを見て、それが『こうとく』という種類のリンゴだとわかったのです。

高継ぎ更新をした枝は、最初の2年間位は苗木を植えたのと同じであまり実が生りません。ただ、苗木の場合は木の成長に伴って少しずつ収量が増えるのに対して、高継ぎ更新の場合は幹や根は成木で枝だけ更新しているので、3年目あたりから一定の収量を得ることができます。

(農業一口メモ : 高継ぎ更新・・・果樹において、高接ぎは収益性が低下した品種を新品種に更新する方法。既存品種の生り枝をすべて切除して、新品種の穂木を接ぎ木し、当年より新品種の新梢のみ生長させる。収益性が高い新品種に用いられることが多い。既存品種を伐根し苗木を植えた場合、収益がでるまでに年月がかかるため、既存品種に高接ぎを行うことにより、新品種の早期の生産量の確保と更新による無収益期間の短縮が図れる。)

↑ これでは難しくてよくわからないですよね。要するに、品種としては古く収益が上がらなくなってきたリンゴの生り枝(枝先の実がつく部分)を全て切り落とし、新品種の枝から作る穂木をその切り口全部にくっつけて、全体を新しい品種のリンゴの木に変えてしまう、という技術です。

父は、特にリンゴ作りにはこだわりがあったので、たまたま地元ではあまり作られていない珍しい品種の穂木が手に入ったために、自分の畑で3本だけ「こうとく」に更新していたという訳です。

これからこの品種で本気で商売をしようと思っていたのか、珍しいと聞いて面白半分で更新したのか、今となってはわかりませんが、新品種の「こうとく」の木を作っておきながら、一度もその果実を見ることも収穫することもなく、一人ではとても手に負えない農業とともに私に残してくれたのでした。

そんな訳で、高継ぎ更新後3年目の今年、めでたく初収穫となりました。

036_05.jpg 11月3日、祝「こうとく」初収穫!

・・・う~ん、さすがプロの技術。3年目でやっと初収穫だから、そこそこに・・・という予想を超えて、結構な収量。3本の木でコンテナ10ケース(約150kg)ありました。

036_06.jpg 丁寧に丁寧に収穫しました。

そして『こうとく』がなぜ特別なのか・・・?

・・・それは、・・・ジャジャ~ン!

036_03.jpg どうですか、この『蜜』の量。

『こうとく』は、なんと、果実全体に「蜜」が霜降り状に入るすごいリンゴ。
『ふじ』より2週間ほど早く収穫でき、果肉は硬く独特の香りが強いのが特徴で、味はまるでパイナップルみたい。(パインアップルという種類のリンゴもあるが、それとは別)

036_04.jpg 決して腐ってるんじゃありません。

青森の一部JAでは「こみつ」というオリジナルブランドで販売していて、なんと3㎏(約10個)で5000円以上の値段で販売しているようです。(ふじの2~3倍くらいの値段)

・・・ムムム、すごいの残してくれたな、オヤジ。

・・・でも、自分の技術でこれを継続して作っていけるのか?

不安が先に立って、どうしてもネガティブな反応になってしまう。。

来年以降は、更新した枝が落ち着いてきて普通はさらに収量が増えることが予想されるのですが、それもちゃんとした手入れと管理ができればこそ。

兼業農家2年目、やっぱり自信のなさで一人悩んでしまうのでした。


・・・勉強だ!勉強!


つづく

このブログについて

山形R不動産仲介担当の水戸靖宏が、ある日突然兼業農家になり、戸惑い、苦悩し、時折愚痴を言いながらも、楽しく農地と向き合っていくストーリー。後継者不足で増え続ける空き農地。山形R不動産では物件ばかりではなく、農地や農業も紹介してしまうのか!?

著者紹介

水戸靖宏(千歳不動産株式会社常務取締役)
山形R不動産における不動産仲介業務担当