第8話 一人で消防署に行ってきた。
馬場先生は週に1日か2日しか山形にいない。僕は、建築を実際につくっていく為の法的な手順は何も知らないから、馬場先生にくっついていったり、手順を教えてもらってから、事を進めていた。そのせいで、だんだん問題になってきたことがある。それは週一度しか山形に来ないし、すごくゆっくりペースでしかプロジェクトが進まないことだ。僕もだんだんもどかしくなってきていた頃からか、馬場先生はこんなことを口にするようになった。
「次からは一人で役所に行ってきてもらう。」
唐突且つむちゃぶりだ。ジョークだろうと思っていたら、本当にに馬場先生は突然、
「ちょっと消防署に行ってきて。」
と僕に指示を出した。「え?一人でですか?」って心では思って、「はい!」ってさわやかに二つ返事してしまった。
何で建築のリノベーションなのに消防署に行くかというと、消防法という法律がこれまた厄介な法律だからだ。どんなところが厄介かというと、もし、法律の施行前に建てられた建物であっても、建物を新しい法律に適合するようにしないといけない。というところだ。
だから、この旅館がいくら建てられた当初の消防法に適合していても、現行の消防法には適合しているとは言い切れないのだ。
そんなこんなで僕は一人で消防署に行くことになった。22歳にして『はじめてのおつかい』みたいな気分だった。いろんな人に、「こういうときはこうしなさい。」っていうようなアドバイスをもらって、消防本部の地図を持っていった。
まあ、いろいろと言われた消防署の指導の結果をまとめると、工務店さんに出してもらった見積もりが変わっちゃうってこと!金額が増えちゃうってこと!
「ここにきてのそれかよ!」って正直思った。そして、「踏む手順間違ってんじゃん!!」ってこのとき気がついた。

山形R不動産草創期、2009年から2013年にかけて、当時の東北芸術工科大学の学生たちが山形市内の空き物件を探し、実際に再生していったプロジェクトダイアリー

黒田良太
鈴木芽久美
山本将史
工藤裕太
佐藤英人
石母田 諭