2012.2.13

第11話 Somethin' Else

水戸靖宏(千歳不動産株式会社)
 

2011年10月上旬
日本人にとって、"米"は命のみなもと。

日本人なら、"ごはん"を好きな人の方が嫌いな人よりも圧倒的に多いはず。しかし日本人の食の欧米化が進んでいて、米の一人当たりの消費量は年々減少しているそうです。

当然、米の生産者でもある私自身は、ごはんを一日三食・・・は、食べてない。
お昼はほとんど麺類、朝飯抜いた日なんかは一日一食、というところ。

「寝るのはふとん、下着はふんどし、ごはんのことをライスだなんて言うんじゃないよ。
・・・それにしても、近頃の人は何か忘れてるね。これでも日本人なんだべがね?」
という歌がありましたが。

「米を作る」 稲作は農業の原点。
たくさんある農産物の中でも"米"は格別です。農家にも、米農家、果樹農家、野菜農家、園芸農家、畜産農家などなど、生業としての主生産物は様々ありますが、ほとんどが田んぼも持っていて、自宅で食べる米は自分で作る農家が多い。

それだけ、農家にとって米は大切なもの。

そして、実りの秋をむかえ、水戸農園の田んぼも稲刈りの時期です。

10月1日。順調に稲も実りました。黄金の海です。

米づくり(稲作)の工程を簡単に説明すると、
(1)育苗箱に稲の種・種籾(たねもみ)をまく。(種まき)
(2)苗代(ビニールハウス)内で発芽させ、ある程度まで大きく育てる。(苗作り)
(3)トラクターにて耕し田の土を砕いて緑肥などを鋤き込む。(田起こし)
(4)田んぼに水を張り、トラクターにて圃場を整え田植えに備える。(代掻き)
(5)育った幼苗を、田植え機で、本田に移植する。(田植え)
(6)定期的な雑草取り、除草剤散布、農薬散布、肥料散布等を行う。(管理)
(7)稲が実ったら稲刈りと脱穀を同時に行うコンバインで刈り取る。(稲刈り+稲扱き)
(8)乾燥機で乾燥する(水分量15%前後に仕上げるのが普通)。
(9)籾摺り機で籾摺りを行う。(籾→玄米)
(10)精米機にかける。(玄米→白米) →炊けば、おいしい"ごはん"の完成!

というのが最近の一般的な作業手順です。(地方や生産者ごとに多少異なります)
昔は家族総出で全て手作業でやってました。


父が幼少のころ(戦後まもなくのころ)は、農村の学校では「田植え休み」や「稲刈り休み」がそれぞれ一週間くらいあり、小学生でも手伝いをするのがあたりまえだったそうです。
その時代はまだ食糧難で、農業はなんといっても米づくりが主役でしたから、特に収穫作業である"稲刈り"は、一年の中でも一番重要なビッグイベントでした。

私が小学生くらいまでは、我が家でも昔ながらに家族総出で"稲刈り"をやっていて(さすがに「田植え休み」や「稲刈り休み」はありませんでしたが)、(7)バインダーで稲刈り、(8)稲杭にかけて天日干し、(9)脱穀、籾摺りという一連の作業は手間がかかり大変でした。


稲刈り後の稲束を担いで運んだりする作業をよく手伝わされたものですが、稲藁が手や首に擦れ、藁くずがシャツの中に入って全身がチクチク痛痒く、長靴が泥のぬかるみにハマって歩くのも一苦労、その作業があまりに辛かったために、「将来、農家になんか絶対なるもんか!」と心に誓った記憶があります。
そういう潜在的な記憶が、私にサラリーマンになるという選択をさせ、結果、いまごろになって兼業農家をやるハメになったんだと思われます。

現在は、水戸農園では、(1)種まき~(6)管理は自分でやり、(7)稲刈り~(9)籾摺りまでを近くの大規模米農家に委託してやってもらいます。


なので、農業の醍醐味ともいえる収穫作業(稲刈り)を人に任せてしまい、自分では米づくりのクライマックスを味わえないことになる訳ですが。作業の機械化に伴い効率化され、我が家程度の作付け量なら大型機械を使えば約半日で稲刈り、さらに一日程度で乾燥、籾摺りが終了し、稲刈りの二日後には玄米が家に届いて新米が食べられるのです。

今年も委託農家の大型機械のおかげで、我が家の稲刈りも無事終了しました。
シーズン途中に父から私が受け継いで、二人で作った今年の新米は、味も格別でした。

Befor 稲刈りを待つ田んぼ。「実るほど 首をたれる 稲穂かな」の風景。

After 半日で稲刈り終了。

ただ、この作業のためだけの大型機械(コンバイン、乾燥機など)がハンパなく高額。

米の生産だけで維持できるだけの収入がある大規模農家でなければ、通常こういう機械は持っていません。

果樹メインの我が家では、自分ちの飯米と親戚数軒が一年間食べられるだけの面積しか稲作をしていないので、そんな機械を買っても採算があわず維持できません。

稲刈りは、昔は鎌で手刈りしていましたが、昭和30年代にバインダーという機械が登場しました。バインダーというのは、稲を刈取り一定の束ごとに結束する機械で、刈取った稲束を杭がけして天日で乾燥させ、今度は別のハーベスターという機械で脱穀(稲扱きともいう。稲の茎から籾をはずす作業)して籾にしていました。

そして、昭和40年代ごろ開発されたコンバインという機械によって、稲刈りと脱穀を同時に行うことができるようになりました。(ただし、天日で乾燥させる工程を飛ばして一気に脱穀して籾の状態にするため、脱穀したあと乾燥機という別の機械で乾燥させる必要がある)
この、コンバインという機械がとにかくスゴイ。最新型のコンバイン(6条刈、キャビン、エアコン、オーディオ付のフル装備)は1500万円もするんです。

・・・せ、1500万円! まさに農機具界のベンツです。
果樹農家の私からみると、憧れの超高額スーパー営農マシーンです。

あこがれのスーパー営農マシーン「コンバイン」 もちろん、ウチでは持ってません! (画像はサンプル)

そしてこれが乾燥機。これも当然数百万円。こんなもん持ってませんよ、普通。(画像はサンプル)

コンバインや乾燥機は、米づくりの効率化には絶大な効果があります。

でも、高額であることと、大型機械のため山間部などの狭い田んぼでは使えません。今でも、昔ながらにバインダーで稲刈りして、稲杭に稲束をかけて天日干しした米を作っている農家もたくさんあります。乾燥機で強制的に乾燥させるより、天日干しで自然乾燥した米の方がおいしいというこだわりもあるようです。
実際、ウチの田んぼのお隣さんも。

お隣の田んぼ。昔ながらのバインダーと稲杭にかけて天日干し。昔はウチでもやってた懐かしい風景です。

それぞれの農家が、こういう「こだわり」を持って自分好みのやり方で仕事できるのも、農業の魅力だと思います。ただ、そうするには手間を惜しまず時間をかけなきゃ無理。


兼業農家で果樹の管理に忙しい水戸農園では今のところ考えられません。

ウチの米だって、食味ランキング特A受賞(当時)銘柄「はえぬき」だし。

食べてみれば、乾燥機だけど苦労した分美味しく感じるし。

まあ、それぞれのやり方あるさ。(負け惜しみか?)


つづく

このブログについて
 

山形R不動産メンバーの水戸靖宏が、ある日突然兼業農家になり、戸惑い、苦悩し、時折愚痴を言いながらも、楽しく農地と向き合っていくストーリー。後継者不足で増え続ける空き農地。山形R不動産では物件ばかりではなく、農地や農業も紹介してしまうのか!?


著者紹介
 

水戸靖宏(山形R不動産/千歳不動産・マルアール代表)
山形R不動産の代表であり、千歳不動産株式会社の代表取締役、そして株式会社マルアールの代表も務め、さらに現役の兼業農家として、ラ・フランスやさくらんぼを栽培。

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