2012.3.2

第12話 Across the Universe

水戸靖宏(千歳不動産株式会社)
 

2011年10月上旬 その2
実りの秋真っ只中です。
自宅の裏の畑の隅に植えてある"栗"も、美味しそうに実りました。

栗。まさに秋の味覚ですね。これは絶対、クリご飯!

栗の木は自宅の裏に一本だけなので出荷はしていません。
サクランボやリンゴなど、商品としての作物の管理に追われ、気にしてはいながら栗の消毒なんて全然やってなかったため、下から見上げる分には「美味しそうに」実ってますが、収穫してみると、ほとんど虫に喰われてて、我々人間がいただいたのは20個位しかありませんでした。

クソ~、害虫ども・・・・・来年は絶対消毒してやる!

ラフランスやリンゴの収穫を控えたこの時期は、ほかにも様々な仕事が沢山あります。
秋の重要な仕事のひとつ、果樹園への施肥。

おいしい作物を育てるための果樹への栄養供給や肥沃な土壌づくりのために、圃場にさまざまな肥料を施します。水戸農園では有機肥料をメインに低農薬栽培を行っているため、7月~8月ごろに「骨粉」や「鶏糞」を、10月に「王将有機」という肥料を使っています。

この「王将有機」は、地元天童の土壌に合わせて必要な成分(窒素、リン酸、加里)がバランスよく配合されたJAてんどうオリジナルの肥料。

・・・なんかスゴイ。(けどJAに儲けられてるってことか?)

この時期は基肥(元肥)といって、翌年良い花を咲かせて良い果実を実らせるための、とても大切な肥料です。まだ根の活動が活発なうちに施肥しないと効果がないため、リンゴやラフランスの収穫後(11月以降)では間に合わないので、収穫前の忙しい中で作業しなくてはなりません。

JAてんどうオリジナル肥料「王将有機80」。・・・80って何の80か?・・・わかりません!

この肥料一袋が20kg。

これをリンゴ、ラフランス、サクランボと全ての園地に、木の周りだけでなく園地全体に手作業で撒く作業。肥料散布機もあるにはあるけど、機械だといまいち全体にまんべんなくという繊細な散布が難しく、結局、手撒きしています。

リンゴ、ラフランス、サクランボ、合計で約150アール(ざっと4,500坪)。

当然全て歩き回っての肥料撒き。
うう・・・疲れる。。。この辺が、いかにも農業っぽい地道な作業です。

秋はまだいいんですが、夏の暑い中での施肥作業はさらにハード。


特に「鶏糞」。鶏糞とは読んで字のごとく鶏の糞をペレット状に加工されたもの。
鶏の糞ですよ。トリのフン。

ゴム手をしているとはいえ「鶏糞」を手でつかんで散布している訳で、ペレットが崩れてきて粉状になり、汗をかいた全身にその粉が付着して、作業が終わる頃にはトリのフンの粉で顔面が真っ黒、自分の周りにハエがタカるという状態。

自分が道端でハエにたかられている○ンコになった気分。
うう・・・この辺も、農業っぽい・・・か?


そして、秋野菜を植えるため自宅裏の自家用菜園(約5アール)の耕運作業。

以前はトラクターでやっていましたが、最近、ミニ耕運機なんていう便利な機械が出てきて、これを使えば女性でもお手軽に耕運作業ができます。

テレビのCMなんかでも見かけますが、カセットコンロ用のガスで動くカセットボンベ式の物まであるんですね。

ただその辺は農家です。お手軽な、という機械では不足なのか、ウチのはガソリンエンジンタイプで126㏄。小型バイク並のパワーです。

久々に出た!営農マシーン!ミニ耕運機「my Boy」 カッコイイ・・・というか、カワイイ。

初登場!自宅裏の畑(自家用菜園) 上半分くらいが耕した部分。

耕運後、さっそく母が、白菜の苗を植えていました。

下半分は山形名物の青菜。
鍋に入れたり、漬物にしたり、冬期間に家で食べる野菜はほとんど自給自足です。


さらに、晩成種のリンゴ「ふじ」の収穫の25日~7日前に散布が必要な落下防止剤「ストッポール」の消毒(散布作業)です。

果樹の落下防止剤「ストッポール」

この薬は植物ホルモン剤で「オーキシン活性により収穫前の落下を防止する」というもの。
詳しいメカニズムはよくわかりませんが、要するにリンゴが熟して重くなってくると、台風などの風雨による落下被害が出やすくなりますが、この薬剤はその落下を防止する効果があるのです。

落下防止剤は一斉散布ではなく各自任意散布なので、原液を購入して自分で薬剤を調合しなければなりません。普段の消毒は組合で調合してくれた薬剤をもらってくるだけなので、自分で薬剤を調合するなんてちょっとビビリますが、理科の実験みたいでなんか面白そう。これこそ農業経営の醍醐味だぜ。

なんとなく専門的な作業に、テンションも上がり気味。
まず、SS(スピードスプレヤー)のタンクに自宅の簡易水道(井戸)から水を汲みます。


散布に必要な薬剤は500リットル。JAの指導によると原液を希釈倍率1000倍に薄めて、ということで 500リットルの1000分の1は・・・ええと・・・50㏄ か。よし。簡単だな。

ストッポール原液(500㏄入り)のボトルから軽量カップに50㏄分けて。これをSSのタンクに入れてと。順調、順調。

久々登場のSS。自宅の簡易水道(井戸)から水を汲んで薬剤を作ります。

・・・ご聡明なみなさまには、すでにお気づきでしょう。


ここまでで既に重要なミスを犯しているわけですが、「オレってプロでしょ」的な、おかしなテンションの自分では全く気づいていませんでした。だいたい「なんか面白そう」っていうノリでこういう仕事をするあたり、もう完全に危険です。

簡単に調合を終え、気分よくSSに乗り込みリンゴ園へ。散布範囲は10月下旬収穫予定のリンゴだけなので約20アール。何度もこなしてきた消毒は、問題なく順調に進み1時間足らずで完了。

よ~し、我ながら完璧な仕事だ。

・・・・・・・・

ん?・・・・・なんか違う気が。

・・・・・・・・
「ストッポール」こんなに残ってていいのか?

・・・・・・・・
まてよ、500リットルの1000分の1は・・・ええと・・・50㏄・・・んん?

・・・バカ!違う。500ccだろ!

・・・・・・・・


薬剤の調合を間違えました。(泣)

恥を忍んで、JAの担当さんに相談したところ、

「千倍のところを1万倍で消毒した?あっはっはっはっは・・・・・・。そんなの水かけたのと一緒だ。何も問題ないからもう一回やり直して!」

という誠にあたたかいご意見で、プロとして順調に完璧にこなしたはずの作業を、もう一回、やり直したのでした。


つづく

このブログについて
 

山形R不動産メンバーの水戸靖宏が、ある日突然兼業農家になり、戸惑い、苦悩し、時折愚痴を言いながらも、楽しく農地と向き合っていくストーリー。後継者不足で増え続ける空き農地。山形R不動産では物件ばかりではなく、農地や農業も紹介してしまうのか!?


著者紹介
 

水戸靖宏(山形R不動産/千歳不動産・マルアール代表)
山形R不動産の代表であり、千歳不動産株式会社の代表取締役、そして株式会社マルアールの代表も務め、さらに現役の兼業農家として、ラ・フランスやさくらんぼを栽培。

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