2012.5.28

第23話 Hold on, I'm coming

水戸靖宏(千歳不動産株式会社)
 

2012年 4月下旬
春になり、同時に本格的な農業シーズンです。
ところが水戸農園では、またもや早々から大事件が発生していました。
(もはや、事件やトラブルは水戸農園名物ともいえる)

5月中旬に田植えする予定で、4月中旬には苗代に種まきをするために、苗代(なわしろ)として使用する圃場を一度耕やして平らに均さなければなりません。

そこで、初登場!スーパー営農マシーン「トラクター」だ!!・・・・・・・??

・・・。

動かない。

初登場!スーパー営農マシーン「トラクター1号」・・・でも故障中。最初で最後の登場か?!

父が長期間(約30年位?)愛用してきたトラクター「KUBOTA B1400」(14馬力、4WD)。

昨年の同時期、同じ作業を最後に約一年使っていませんでした。それ以前から、ハンドルのガタつきや、オイル漏れや、ツメの磨耗などいろいろと不具合を言いながら父がだましだまし使ってきた年代ものでした。

四角い顔に煙突立てて、なかなか男前なトラクターでしたが、約1年ぶりに見てみると、今度は後輪が劣化してパンク、バッテリーも上がり、ついに動かない状態となっていました。

・・・どうする?・・・これ、部品あるのか?・・・治るのか?

とにかく農機具屋さんに来てもらい、トラクターを修理見積りに出しました。
すぐに使いたいのに、とてもすぐに治るという見込みはありません。
というか、不可能。

どうしようか迷っていると、お隣の野菜づくりがメインの農家から、
「うちのトラクター、使っていいから。苗代、準備遅れるべ。お互い様だがら。」

というありがたいお言葉が。お言葉に甘えて使わせていただきました。
お隣のトラクターは申し分なく絶好調で、あっという間に作業終了。

お隣のトラクター「三菱 MT240」(24馬力、4WD、ミニローダー付き)。

「いいな~。ウチもこういうの欲しいな~。馬力あるし、ミニローダー付きだし。ローダーあったら農道の除雪もできちゃうな。来年の剪定の時も除雪が楽になるだろうな~。」

淡い憧れ、というか、一般の方なら一生に一度も考える必要ないであろう「新しいトラクターが欲しい」という、いかにも農家っぽい農機購入欲が芽生えはじめたりして。

・・・いやいやいや、無理。

果樹がメインの水戸農園では、米づくりのために田んぼや苗代、野菜づくりのために屋敷畑(家の裏にある屋敷内の畑)を時々耕したり、田んぼの耕耘に使う程度、ほんの一部の作業で年に数回しかトラクターは使っていません。

まして米も野菜も自家用を作るだけで販売していないので、トラクターを維持し償却するだけの収入がありません。しかも、始めたばかりの兼業農家、自分がトラクターを無駄にせず使いこなせるかというと全く自信もありません。

しかも、農業機械というものは30年でも40年でも、寿命がくるまで何度も修理して使うのが当たり前、寿命の長い機械なので、中古といえどもかなり高額です。
調べてみると、数年使用した中古トラクター(使用時間50h、程度は極上)でも、軽く200万円以上。

(※注:農業機械、建設機械などの特殊作業車は、「距離メーター」ではなく「アワメーター」がついており、使用時間で程度を判断します。「hour」つまり時間を計るメーター。)

中古トラクター(28馬力、4WD、使用時間約50h)(参考画像)

キャビン付きの新車なら、小型でも400万円以上(大型は1000万以上)。
超憧れの機械です。

新車トラクター(28馬力、4WD、キャビン付き、エアコン付き)(参考画像)

でも、・・・新しいトラクター、・・・欲しいなー。

・・・そして、ついに、新車のトラクターを購入!

という、痛いエピソードを期待されたみなさん、残念。
いかに私でもそこまでバカじゃありません。

そういう状況や採算性などもちゃんと考えて、トラクター購入の野望は諦め、ウチのトラクターを修理して使うしかないと思っていた矢先、またお隣から、

「ちょうど、ウチでトラクター買い換えることにしたんだけど、お前のトラクター治るのか?なんなら、ウチのを安く譲ろうか?」

という、甘い誘惑が。というか、魅力的なお話が。

・・・・ああぁぁぁ、・・・・欲しいぃぃぃぃ・・・・。

でも、お隣のトラクターは野菜など園芸作物用の広い圃場で使っていた24馬力。ウチの14馬力よりも相当強力、しかも大きさもデカい。田んぼはいいとしても、自宅の敷地内の狭い野菜畑では機械が大きすぎて小回りもきかず、持て余してしまうのは目に見えてます。

でも、・・・いいな~・・・ローダー付きだしな~・・・・・

気持ちは、相当揺れていました。
安く譲ってくれるって言ってたしな~・・・買っちゃうか・・・・。
と、傾きかけたとき、母が一言、

「ほだな、おっきくてわがらね~。ほえど馬買ったて言われるは~。」
(日本語訳:「そんな大きすぎてダメ。乞食が馬買ったなんて言われちゃうよ。」)
(※注:地元の古い方言で、「身分不相応」なことをそういう言い回しで揶揄した)

これには、あっさりと目が覚めました。「ほえど馬買った」、高校生のとき、金もないのに無理して400ccの単車買ったときも言われた記憶があるし。。

父が使ってた愛着のあるKUBOTAをなんとか治してもらおうと、農機具屋さんに連絡してみると、ウチのKUBOTAを治すには、故障箇所が多く、部品も探さなければならず、金額的にも時間的にも簡単ではない様子。・・・むむむ、困った。。

ところが、またもや絶妙なタイミングで、高齢で後継者もなく農業を辞めてしまった農家が手放した、手頃な14.5馬力の中古トラクターが入ったから見てみないかとの話が。

とりあえず見に行ってみると、・・・・おおっ!なかなかいい!
そこにあったのは「ヤンマー Ke-4」(14.5馬力)でウチのKUBOTA(14馬力)とほぼ同じ大きさ。約15年前の年式で使用時間200h位、程度良好。そして価格も、なんとか手が出る。

・・・ほんとに手頃だ。

手頃だとはいえ、やはり兼業農家で果樹農家のウチとしては、トラクターによる収益性はほぼゼロ。単に自分が欲しいだけだし。。気軽に買うには安い物ではないし。。

少しだけ悩みましたが、それでも農家。兼業とはいえ農家は農家。
今後、自分が一丁前の農家になって10年、いや20年大事に使えば決して無駄ではない。

そして「趣味でバイク買いました」っていうより全然カッコイイ(か?)、いや実用性が高い。

・・・え~い、買っちゃえ!

という訳で、すぐにその場で買いました。
「トラクターが壊れた事件」発生後、わずか4日目のこと。

そして、またまた初登場!スーパー営農マシーン「トラクター2号」です。

トラクター2号「ヤンマー Ke-4」(14.5馬力、4WD、ローダーもキャビンもエアコンもついてませんが何か?)

・・・カッコイイ!

KUBOTAを諦め、三菱を諦め、最後にやって来たのは、あのヤン坊、マー坊でおなじみのヤンマー。おそらく全国民に愛されている天気予報の、あのヤンマーです。

「風に逆らう~ 俺の気持を~ 知っているのか~ 赤いトラクタ~
燃える男の~ 赤いトラクタ~ それがお前だぜ~」
(by 小林 旭 「赤いトラクター」 )

よ~し、いくぜアキラ!

トラクター2号「アキラ」、早くも大活躍です!

さっそく、フル活用。まずは、自宅の屋敷畑を耕し、野菜を植えるスペースも、苗代として使うスペースも完成。
続いて、組合(※)の大型トラクターで田起こし(耕起)が終わった田んぼの、畦周りを更に耕します。こうすることで、水を入れたときに田んぼの外周の柔らかい土の部分から水が入り、全体に水が均一に回るようになります。
(※注:近隣のほとんどが果樹農家である地元では、農事組合法人を組織して大型トラクターを所有し、本格的な田起しや代掻きの作業は共同で行っています。)

順調!順調!

トラクター2号 自称「アキラ」の活躍で、4月22日には無事に苗代の種まきも終わりました。

あとは5月の連休明けに水が入り代掻き、5月中旬には田植えです。


つづく

このブログについて
 

山形R不動産メンバーの水戸靖宏が、ある日突然兼業農家になり、戸惑い、苦悩し、時折愚痴を言いながらも、楽しく農地と向き合っていくストーリー。後継者不足で増え続ける空き農地。山形R不動産では物件ばかりではなく、農地や農業も紹介してしまうのか!?


著者紹介
 

水戸靖宏(山形R不動産/千歳不動産・マルアール代表)
山形R不動産の代表であり、千歳不動産株式会社の代表取締役、そして株式会社マルアールの代表も務め、さらに現役の兼業農家として、ラ・フランスやさくらんぼを栽培。

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