2012.7.19

第26話 A Hard Day's Night

水戸靖宏(千歳不動産株式会社)
 

2012年 6月
ああああぁぁぁ~~・・・、ついに・・・、やっと、終わりました。

そう、6月といえば、「サクランボ」。
これこそウチのメインイベントです。

それにしても、収穫作業だけでまるまる3週間。
ホントに、長かった~。

えっ?会社?・・・もちろん行ってません。かれこれ3週間ほど。
毎日、毎日、お昼と夕方の一日2回JAへ出荷するたびに、周りの農家仲間のみなさんから、「ついに会社クビになったのか?」「いつから専業でやってんだ?」と聞かれる始末。。

い~や、まだまだ続けますよ。兼業。

サクランボの収穫までの作業は、田植えが終わるとまもなくスタートします。
今年は5月19日に田植えを完了、その翌週にはサクランボの摘果を始めました。

満開を過ぎ、花が散った後に、一枝ごとにどれだけ着果しているかを見極めながら、多すぎる枝は摘果して適正着果量に調整します。

摘果前。着果量がちょっと多過ぎです。

玉のしっかりした大きい実を残して、あとは全て落とします。

摘果後。画像下方に摘果した実がバラバラ落ちています。これぐらい薄くして、一粒一粒大きく育つように。

摘果を終えると、次は雨よけテントのビニール張り。
摘果して残した果実は、養分をどんどん吸上げてぐんぐん大きくなってきます。ある程度大きくなってから果実に雨があたると、実割れして売り物にならなくなってしまうため、ビニールのテントを張って雨から守ります。

でもよく考えてみると、雨から守るために大掛かりなテントを張って保護される果物って。。
過保護、というか、贅沢というか。。

テントのビニール張り完了。

思えば、一年前、父と一緒に仕事した最後の作業がこのビニール張りでした。そして、その直後、収穫を待たずに急逝し「兼業農家 水戸農園」が誕生したのでした。

・・・もう一年か。。

(「兼業農家スタート」のくだりはこちら → 第1話参照

全ての雨よけテント(13棟)のビニール張りをしている間に、着々と果実は成長し、もう赤い色がついてきました。収穫までの準備を急がなくちゃ!

佐藤錦 6月7日現在。少し着色が進んできました。

ビニール張りの次は、防鳥ネット張り。
色付いてきた果実は鳥たちの恰好の餌食になってしまいます。鳥の食害から守るため、テントの周囲全部をネットで囲います。

テントの防鳥ネット張り。

ビニールとネットを張ったら、最後に全ての木の周囲に反射シートを敷きます。
日があたらない果実の裏側まで綺麗に赤くなるように。

反射シートを敷いて、果実の着色を助けます。

これでようやく収穫までの一連の設備が完成です。

6月9日、雨から守る屋根(ビニール)、鳥から守る壁(ネット)、着色を助ける床(反射シート)、全部完了。

一連の設備の設置は全て手作業。もちろん一人ではできないため家族総出の作業。今年高校生になった息子も、「オレもじいちゃんの代わりに手伝う!」と張り切って出てきたものの、テントの梁部分(高さ約4m)まで上ったところで顔面蒼白、一歩も動けずリタイヤ。

せっかく殊勝な心がけで初めてビニール張りを手伝おうとしてくれたんですが。。
・・・息子よ、農業は甘くないのだよ。農家の息子がテントに上れないでどうする!

そして、いよいよメインイベント。収穫作業のスタートです。

6月18日、佐藤錦の収穫開始。真っ赤に色づいたサクランボ、食べ頃です!

旬の短いサクランボの収穫はスピードが命です。しかも朝の涼しいうちに収穫し、その日のうちに全て出荷しなければなりません。

ウチでは収穫要員(もぎ方)は毎日5~6人。そして収穫した果実をギフト用、JA用など出荷先ごと別々に選果してパック詰めし、箱詰めして商品化するために、パック詰め要員(詰め方)も毎日5~6人で稼動しています。そのため、サクランボの収穫期間は、家族以外に毎日7~8人のアルバイトをお願いしています。

毎朝4時半から収穫を開始。そして当日の収穫分を全部パック詰めして、全て出荷するまで仕事は終わりません。もちろんアルバイトさん達は夕方の決まった時間で帰りますが、当然ウチの家族は全量出荷するまで終われません。

4時起床、4時半~12時収穫作業。
14時JAへ出荷(1回目)。
14時半~19時選果、パック詰め作業。
19時宅急便でギフトの注文分を発送。
20時JAへ出荷(2回目)。
後片付けして自宅に戻るのが21時位。
なんだかんだで寝るのが22時~23時位。

・・・朝食、昼食、休憩時間を差し引いても、ざっと14時間労働。
・・・毎日、毎日、毎日。3週間、一日の休みもなく。

さらに梅雨の真っ只中だというのに、山形ではほとんど雨が降らず晴天が続いていました。特に6月下旬は30度を越す日も。猛暑の中での収穫作業は過酷です。ただ外にいるだけでも暑いのに、いわゆるビニールハウスの中で、しかも地面には日差しをギラギラ反射するシートが張ってある訳です。そんな環境で脚立で高所に上っての作業。脚立の最上部付近の温度は、間違いなく40度を超え、50度にも達する暑さ(※自分調べ)。

この辛さは言葉では表現できません。ぜひ一度、サクランボ最盛期の猛暑日に、脚立に上ってみて下さい。

あまりに慌しくハードな毎日で、一日がま~長い。長いっていうか、昨日と今日の境目が曖昧な感覚になってきて、今朝なにを食ったか、とか、昨日なにしてたんだっけ、とかが思い出せなくなってました。

また、冬の剪定が良かったのか、春以降の管理が良かったのか、(おそらくどっちもでしょう)今年は昨年以上の豊作でした。毎年ほぼ同じ人数で稼動しているため、豊作だからといって、今年だけ突然アルバイトさんを増やすとか、一日あたりの出荷量を急に増やすとか、できる訳ではありません。

ということは、全て収穫を完了するまでの日数がかかるということ。平年では収穫期間はおおよそ2週間位でこなせていたのですが、今年は3週間。ざっと1週間多い。

その分多くの量を出荷していますが、出荷期間が長いほど市場の価格は下がっていく訳で、日数がかかった分、人件費もかかっていることになりますから、豊作だから収入が増える、とは言えません。(← こういうのを「豊作貧乏」という)

とにかく、収穫だけで3週間。長い戦いでした。

シーズン終盤、6月28日。完熟の佐藤錦。まだまだ収穫は終わりません。

家族全員、もはや限界を超え、勢いだけで収穫、出荷作業を繰り返した結果、やっと、収穫を終える日がきました。6月18日から収穫を開始して19日目、7月6日、ついに完了。。

収穫を終えたサクランボの木。身軽になって気持ちよさそうです。

しかーし、収穫を終えても、まだ気を抜くわけにはいきません。一気に反射シートを剥がし、防鳥ネットをはずし、テントのビニールを剥がし・・・
・・・これで、・・・ついに、・・・終わった。。

ビニールを剥がしたテント。

そんなこんなで、本当に長かったサクランボの大収穫際が終わりました。

「父の手伝い」から「自分が経営者」として臨んだ仕事へのプレッシャーがあったのか、とにかく、今は、なんとか終えた「達成感」よりも「疲労感」が大きいような。。
それでも、母や家族の力がなければ、とてもできませんでしたが。

サクランボの全ての片付けを終え、みんなが帰ったあとに、最後にテントに上ってみると、今年のシーズンのエンディングを飾るように夕空が染まっていました。


また来年。。。

自分は、来年もやれるのでしょうか。


つづく

このブログについて
 

山形R不動産メンバーの水戸靖宏が、ある日突然兼業農家になり、戸惑い、苦悩し、時折愚痴を言いながらも、楽しく農地と向き合っていくストーリー。後継者不足で増え続ける空き農地。山形R不動産では物件ばかりではなく、農地や農業も紹介してしまうのか!?


著者紹介
 

水戸靖宏(山形R不動産/千歳不動産・マルアール代表)
山形R不動産の代表であり、千歳不動産株式会社の代表取締役、そして株式会社マルアールの代表も務め、さらに現役の兼業農家として、ラ・フランスやさくらんぼを栽培。

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