2014.3.12

第52話 Don't Think Twice, It's All Right

水戸靖宏(千歳不動産株式会社)
 

2013年 11月
なんとか台風を乗り越えて、ラ・フランスの次はリンゴの収穫です。

11月2日、リンゴの収穫開始!

味自慢!水戸農園のリンゴは今年も美味しく出来上がりました!!
まずは「ふじ」の中でも着色がよく早期出荷が可能な「2001年」というリンゴから。

JAから市場に出れば「サンふじ」という名前で販売されるんですが、同じ「ふじ」という品種でも、枝変わり種や品種改良によって様々な特徴を持つ系統がいくつもあり、その一つがこの「2001年」なのです。まー、おそらく2001年ごろに発見されたんでしょう。(か?)

本来の「ふじ」は11月中旬~下旬が収穫期。
ですが、それより2~3週間早く出荷できるため、比較的有利に販売できる品種です。
(果物はその品種の出始めが市場価値が高いのです!)

「サンふじ(2001年)」

水戸農園では、「2001年」はもっぱらJAに出荷。
11月下旬ごろ収穫する「ふじ」を贈答用として、お客さんの注文に応じて産地直送で販売しています。

「2001年」の収穫を終え、今度は期待の新品種、幻のリンゴともいわれる「こうとく(高徳)」の収穫です。「こうとく」は3年前に父が高継ぎして品種更新し、昨年初収穫、そしていよいよ今年から初出荷する品種です。(昨年の「こうとく」の話はこちら→第36話参照

11月9日、「こうとく」収穫開始!

「こうとく」は一つ一つ吟味して、完熟したものから収穫しなければなりません。

色づきと完熟度合を見て丁寧に収穫。

「サンふじ」も熟したものから収穫するのは同じ。
ですが、蜜入りサンふじとして販売しても果実一つ一つに個体差があり、蜜入りを保証するものではありません。

それに対し、完熟して果実全体に霜降り状に蜜が入るのが「こうとく」の特徴。
というか、蜜入りでない「こうとく」は市場では価値がないという恐ろしいリンゴ。

収穫時、完熟か蜜入りかを見分けるといっても、一つ一つの果実の状態を入念に見るしか方法がなく、「間違いなく蜜入り」だけを収穫するのは不可能です。

「蜜入り保証」として出荷するためには、箱詰め前の選果作業が重要。そこで、その選果作業で蜜入りを見分けるための、秘密兵器があるんです!

「こうとく」選果作業の秘密兵器、「LEDライト(懐中電灯)」だ!

はい。まー普通の懐中電灯です。ただし、LED。
これをどう使うのかというと、

果実のお尻にライトをあてると・・・

「こうとく」のお尻にライトをあてて、部屋の照明を消すと、あ~ら不思議。

果実が光るんです!

なんと、果実が提灯のように光って闇に浮かんでいるではありませんか!

まるで漆黒の宇宙に浮かぶ、デススター!
(↑ byスターウォーズ ・・・これ、最後は爆破されるんだっけ?)
とにかく、なんて幻想的な光でしょう!

これ、出荷先の青果商さんに教えてもらった方法なのですが、「こうとく」は皮近くまで蜜が入るので、LEDの光で蜜が照らされて果実全体が光るように見えるのです。

これでホントに間違いなく蜜入りか?念のために割ってみると、

これが蜜入り保証の「こうとく」・・・まーぼーろーしー‼

出た!さすが!これがたっぷり蜜の入った「こうとく」です!

一つ一つ、リンゴのお尻にライトをあてて選果、蜜入りを確認して箱詰めします。

こんな風に、一つ一つキャップで包み箱詰めして出荷します。

「こうとく」は生産農家が少ない希少品種で、通常JAでは取扱いがありません。そのため、全国に販路を持ち、珍しい果物も扱う青果商さんに出荷します。

昨年は初収穫はできましたが、高継ぎ更新後の枝もまだ若く、蜜入り具合もバラつきがあって品質に自信がなかったので、家族や親せきに分けただけで出荷はしませんでした。

今年は枝も落ち着いてきたのか、ほぼ蜜入りで品質も安定したようなので青果商さんに見てもらったところ「蜜入り保証」でOKが出たため、めでたく初出荷となりました。

後日談ですが、初出荷なので、あまり期待せずにいたところ、出荷販売額は3kg(10玉)で5,000円前後の値が付いたのです!「サンふじ」のほぼ倍の値段!

・・・すげえ!

暗闇の中で一つ一つライトあてて選果した甲斐がありました。

それにしても、オヤジ、こんなリンゴを作ろうと準備していたなんて、さすがです。
こうやって古くなった品種を更新して、新たに高付加価値のリンゴを作る、まさにプロ。

父の亡き今、自分はその恩恵を受けて、ただ収穫してるだけ。。

「オレの作ったリンゴ美味いべ!高く売れたべ!これが農業の醍醐味だぞ!」

って、言ってるのが聞こえてきそうです。そして、

「これがプロの仕事だぞ!二足のわらじでは決してできないぞ!」とも。

このリンゴは自分に喜びも、悔しさも、現実感も、もたらしてくれました。

そして今年は山形に、例年より少し早く初雪が降りました。

11月12日、初雪の朝。

2013年の最後の収穫、贈答用「サンふじ」も美味しく出来上がりました。

11月16日、「ふじ」の収穫開始!

11月下旬までに収穫を終え、箱詰めしてお得意様のご注文に産地直送で送ります。

兼業農家3年目のシーズンもこれでラストスパート。

二足のわらじの葛藤も、苦悩も、まだまだ続きそうです。。


つづく

このブログについて
 

山形R不動産メンバーの水戸靖宏が、ある日突然兼業農家になり、戸惑い、苦悩し、時折愚痴を言いながらも、楽しく農地と向き合っていくストーリー。後継者不足で増え続ける空き農地。山形R不動産では物件ばかりではなく、農地や農業も紹介してしまうのか!?


著者紹介
 

水戸靖宏(山形R不動産/千歳不動産・マルアール代表)
山形R不動産の代表であり、千歳不動産株式会社の代表取締役、そして株式会社マルアールの代表も務め、さらに現役の兼業農家として、ラ・フランスやさくらんぼを栽培。

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