【第3話】解体で見えてきたもの、受け継がれていくもの。
ついに、解体が終わった。
これまで壁や天井に隠れていた、この家の“素顔”が姿をあらわす。

この写真は解体途中。奥が増築部分。
ついに解体工事が完了し、これまで隠れていた姿があらわになった。
まずわかったのは、増築部分と元からの住宅部分の造りの違い。
やはり、築60年の既存部分のほうが圧倒的に状態が良い。
今ではめったに見られない、古の職人の技が随所に残っていた。

本来、壁に隠れている電気の配線も、現しにしたいほどにかっこいい。
特に驚かされたのは、土壁の密度。
解体の際に大量の土が出て、処分費が少し上がったほど。
ただ、それこそが当時の「本気の建築」の証。
しっかりと土が詰め込まれ、湿度を調整し、家を守り続けてきた。

ぎっしりと詰まった土壁。調湿の効果もあるのか状態が良い。
そして、もうひとつの驚きがあった。
アリの被害がほぼない。
今の建材は防蟻処理済みが当たり前だが、それでも10〜20年で被害が出ることがある。
それに対して、この築60年の家がほぼ無傷。
やはり、伝統的な木造技法は日本の気候風土に本当に合っている。

潔くぶち抜いた天井。2階からの太陽の光が1階まで降り注ぐ。
この日も、オーナーの思い出話に自然と花が咲いた。
「この柱、こんなに細かったんだね。」
そう言いながら見つめる柱は、亡くなったお父さまがいつも寄りかかってタバコを吸っていた場所だという。
さらに、解体した収納の奥から出てきた一枚のメモ。
「これ、父親の字だ。」
その一言で、ただのメモ書きが突然“時間のかけら”に変わる。
家は、暮らす人の記憶をどこかに必ず留めている。
今回の解体は、まさにその“アーカイブ”に触れる時間でもあった。

解体した収納の奥から出てきた一枚のメモ。ただのメモ書きが突然“時間のかけら”に変わる。
解体してみると、当然ながら抜けない壁があったり、思ったより構造が複雑だったりもする。
その場でプランの修正と詳細の打ち合わせを行った。
けれど、これこそがリノベーションの醍醐味だ。
抜けない壁をどう活かすか。
見えてしまう柱をどう“魅せる”か。
制約の中にこそ、良いデザインが潜んでいる。
最適解を探す作業──いや、もしかしたら“最適”ではなくていいのかもしれない。
思い出の詰まったこの家が、次の住まい手へとバトンタッチされるための形を探していく。
予算、快適さ、光の入り方、デザイン。
その全部をバランスさせながら“この家だからこそできる形”をつくる。
そして何より、大胆な吹き抜けがどんな表情を見せるのか、いまから楽しみで仕方ない。

2階からの光が天井を外したことで1階の水回りまで届く。
次回、第4話では、ついにプランを公開します。
この家がどう生まれ変わるのか、ぜひご期待ください。
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